第16章

彼は山田澪の手を振り払って立ち上がった。「必要ない」

  そう言うと、浴室へ向かい、すぐに水の音が聞こえてきた。

  山田澪も安堵のため息をついた。彼女は下腹部に手を当て、突然不安になり始めた。

  生理が来るとしても、十ヶ月も続くはずがない。

  この恐怖が、彼女を優しさの泥沼から引き戻した。どれほど優しくても、所詮は泥沼だ。

  彼は彼女を愛していない。泥沼に花が咲かないのと同じように。

  彼女の愛は、彼にとっては子供のままごとでしかなかった。

  約20分後、北村健が浴室から出てきた。彼の顔色はすでに元に戻っていた。

  彼は携帯電話を取り出して時間を確認し、山田澪に...

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